犬税を取ってはどうだろうか?

 
 お気に入りの散歩道を歩いてて、ふとヤバいものを見つけて足がタタラを踏む。そう、犬の糞。
 写真のものはすでに誰かに踏まれて敷石の凹凸に擦り込まれている。どんな方が踏まれたのか知らないが、可哀相なことだ。お気に入りの靴の裏に怪しい臭いを放つ有機物をつけたまま歩き続け、自宅玄関まで入ってしまったかもしれない。あるいは、どっかの食べ物屋に入って臭気の元を置いてきたかもしれない。恐ろしいことだ。
 この散歩道には、あちこちに「犬の糞は持ち帰りましょう」「犬のブラッシングをして毛を放置しないでください」といった立て札がある。美しい花壇の草花や立派な桜の並木に、いたくがっかりする内容の立て札がついているのだ。それもかなりの数。それでも糞の放置はなくならない。


 おりしも国でも地方でも税収が不足してて、一般消費税の値上げは近い将来避けられないところだ。一般消費税を増税されるとちょっと辛いので、ここは特別消費税を設けてはどうか。そう、飼い犬に課税するのである。


 もちろん盲導犬聴導犬その他の介助犬は免税する。というか課税対象にしない。牧羊犬その他の使役犬も非課税。アマチュア猟師の猟犬は課税対象とすべきか。警察犬や麻薬捜査犬は公的機関のものなのでもちろん課税対象外。対象となるのは、そう、愛玩用に飼われている駄犬どもである。
 というか、税を払うのは飼い主なので、つまり愛玩用に犬を飼うことに対して課税するのだ。もちろん目的税である。愛玩用飼い犬による被害を救済するために使われる。たとえば、糞を放置する飼い主を検挙する賞金にする。尿で汚れた電柱・私有建物の洗浄代金。公営ドッグランの設置にも使おう。
 だが最大の使途は、無駄吠えする犬を減らすための愛玩犬税等級認定センター(仮称)の設置と維持である。


 愛玩犬税(通称・バカ犬税)は、段階的に課税される。自動車重量税が車両の重さ、つまり道路を損傷させる度合いに応じて課税されるように、バカ犬税はバカ犬が存在することで社会の迷惑になっている度合いに応じて課税されるのだ。
 まず、無駄に吠える犬はもっとも重税を課す。額はいかほどか、課税者にお任せするが、僕としては月額5000円くらいが適当かと思う。このくらい課税されるリスクがあると飼い主が思えば、駄犬の無駄吠えをやめさせるインセンティブになるのではないか。
 他の犬を見かけるとバカに興奮する犬は、その迷惑度に応じて課税等級を上げる。体重が重い大型犬が興奮してはしゃいで他の通行人を怯えさせたり道幅いっぱいに暴れたりすると税は高くなる。ただし、小型犬・超小型犬でもうるさかったり鳴き声が甲高くて遠くまで聞こえるようなら税は高い。犬の大きさと税額が比例するわけではない。頻繁におしっこ(マーキング)する犬も税が高い。
 税額と大きさが比例するのではなく、迷惑度と比例する。だからまったく吠えない大型犬はたいへん税が安い。むしろ、イタチくらいの大きさでもバカ犬は高い。ミニチュアダックスを8匹も飼い、多頭立て犬橇のようにリードを道一杯にひろげて散歩しておられる御仁は、毎月4万円もの納税をして社会に貢献なさることになろう。
 バカ犬と名犬とを鑑別するのが愛玩犬税等級認定センター(仮称)である。ここでは競走馬にゲート試験を課すように、いくつかの課題を提示し、それによってバカ犬度を判定する。バカ犬度判定は毎月受付で、飼い主は希望すれば月に一度だけ、等級を変更できる。訓練して吠えないようになった愛犬は次の月から税の等級が下がるのである。がんばれ。
 ただし、以前は名犬だったのに最近はなんだか吠えまくりで駄犬になった、というケースもあろう。そういうのは迷惑を被ってる近所の方が匿名で通報すれば、センターから「等級再審査に来てください」と呼びつけることができる。これに応じないと問答無用で次の月から等級が最高になる。
 バカ犬税を納めると納税者証として100円玉くらいの鑑札をもらえる。これをドッグタグとして首輪につける。これは必須の義務で、タグのない愛玩犬は脱税犬としてセンターが接収し、希望者に再配布する。無責任な飼い主に飼われるのは犬の不幸だからである。
 鑑札は月ごとに色だかデザインが変化し、パッと見で「先月は納税済みだな」とわかる。先々月のタグのままだったりすると、これも即接収。
 市民からの通報でセンターは出動する。また、市民は糞を持ち帰らない無責任飼い主に対して逮捕権を行使できる。市民は、無駄吠えするバカ犬の飼い主に対して、その犬の等級を下げるべく努力するよう要請できる。


 バカ犬税は、犬を減らそうと意図するものではない。犬や飼い主を弾圧するものではない。社会からバカ犬を減らして、犬を愛する者も愛さない者も等しく幸せを享受できるようにしたい、という目的だ。そのためのインセンティブになれば良いなと思うのだ。
 猫には課税は考えてない。私は犬は嫌いだが(静かな大型犬は好きだ)、猫は全般的に好きだからだ。猫は吠えないし。


 バカ犬税が非常に恣意的な、偏りがある法制であることは認める。エッチなアニメやマンガは規制する、同様の内容でも実写映画や小説は除く、というへんてこな法制が存在する世の中だから、バカ犬税ももしかしたら可能なんじゃないかと思って散歩中に考えたまでだ。考え事しながら歩いてて何か軟らかいものを踏んだような気がする。


【追伸】これは思いつきで書いたエントリで、何も調べずに書き散らしたのだけど、ちょっと前にそんなニュースがあったんですね。知らなかったよ。