石原都政の12年間は、東京に致命的なダメージを残したかも

■こないだから石原慎太郎都知事のことを考えていたのだけど、彼にすごく似た人を僕は以前、知っていた。自分のことを頭が良いと思い、派手好き・一流好きで、歯に衣着せぬ言動が売りのリーダー。
 僕が退職した会社の、前の社長だ。
 ブログ「リストラなう日記」には“大殿様”というコードネームでご登場いただいた(その27 下々から見た“大殿様”とその時代)。
 彼に関してはあの会社の誰もがいろいろ思うところがあるだろう。辞めた者も、今もいる者も。おおむね誰もが認めるだろう特徴は、「派手好きで会社のカネを使うのが好き」「言動が傲岸不遜」「頭が切れる人だった」というところだろう。これ、どれも石原慎太郎都知事と似てる。すごく似てる。


石原慎太郎都知事に関して、去年のIOC総会への旅行代金が飛んでもない額だったという契約書の画像が出回ってて話題だ。その額、1億1924万円だそうです。
 純然たる旅行代金だとすると高すぎるよね。IOC委員への工作費(贈賄?)も含まれてるとしたら妥当でしょうか。
 いやそんなことより、石原慎太郎都知事にはガラパゴス豪遊疑惑とか親族芸術家採用疑惑とか五輪招致でゼネコン利益誘導疑惑とか新銀行東京無軌道融資疑惑とか、余人をもって代え難い吝嗇容疑がいろいろある。舌禍事件よりもこっちが気になる人も多かろう。
 僕が退職した会社の前社長には石原慎太郎都知事のような醜聞めいた話はない。ないけど、失敗したグラフ週刊誌への大規模投資だとか、ン十周年記念パーティの豪華さとか、会長に退いたとき社用のメルセデスを新たに購入とか、会社のカネを使うのが大好きだったという話はすごくよく聞いた。このへんのメンタリティが石原慎太郎都知事と似てるなあ、と思った。


■それよりも、もっと似てることがある、と今日思い至った。二人とも、前世代のリーダーの遺産を食いつぶし、将来の禍根に何ら手を打つことなく退場したことだ(ごめん、石原慎太郎都知事はまだ退場してないね。でもこれからも期待できないので)。
 僕がいた会社には“大殿様”の先々代が築いた莫大な内部留保があった。“大殿様”はそれを使って媒体のスクラップ&ビルドを大々的にやった。スクラップ云々と言えば聞こえは良いが、実際は死屍累々。そして何より、“大殿様”の任期中に会社の財務体質はメロメロになった。カネはある、あるはずだ、と信じて大金のかかる創刊や人事を繰り返した挙げ句、現経営陣が就任してみるとリストラを余儀なくされるまでに会社の財務は傾いていたのだ。
 石原慎太郎都政は“大殿様”の悪い癖に似ている。アタマが良さそうに見える思いつきを実行に移し、膨大なカネを投じ、失敗するというパターン。新銀行東京とかそんな感じ。銀行への外形標準課税というのもありましたね。
 でも、僕はそういうのは危機の本質じゃないと思ってる。問題なのはこの2人のリーダーが、近未来の危機を直視しようとしなかったことだ。最大の問題から目をそらしていたことだ。


■あの出版社の場合、“大殿様”が雑誌を店じまいしたり創刊したりの間、ずーっと業績は落ち続けていた。だけど“大殿様”の任期中は根本的な対策は何もせず、本業が赤字決算でも「副業の収益があるので連結では黒字」と賞与を払い続けていた。賞与がたっぷり出ていた間、マヌケなことに全社員が危機意識を持つことなく来てしまったのだ。
 東京都は新銀行東京の追加投資に400億円とか、実は損失はもっとあるとか、言われる。だけど東京都は日本でいちばん裕福な自治体なのでそんなカネは余裕でファイナンスできる、という。
 ほんとか?
 前に『デフレの正体 ――経済は「人口の波」で動く』という本について触れた(消える読者、消えるジャンル)。この本は人口動態で日本の問題点を見た、という本で、通説をぶち破る見方がいっぱい出てて面白い。
 なかでも凄いな、と思ったのは「現役世代の減少と高齢化は、首都圏がもっとも著しい」というトピックだ。ふつうは誰もが、「東京は地域間格差の頂点に位置する勝ち組」と思ってるでしょ? でもホントは違うんだな。東京は少子高齢化のトップに立ってて、じきに大きな負担・需要不足・現役世代不足に直面する。働き手が不足するのではなく、需要が不足するということが致命的なのだ。
 石原慎太郎都知事は「東京にはカネがある」とか言ってうそぶくだろうが、そのカネもじきにみーんな高齢者が放さない死に金になり、消費意欲の高い若者は人数も可処分所得も減り、消費も景気も下降スパイラルに突入する。沖縄県なんかは人口が増えてるので有望らしい。東京は今のところ「良く」見えるだけに、目に見えて落ち始めたらきっと「落差」は激しいぞ。
 どうする? 高齢富裕層に対する外形標準課税でもやるか? それは自分自身に返ってくるな。それに東京の苦境が露見する頃にはもう都知事引退してるだろうし。他の自治体に逃げるかね。いっそ海外とか?
 いや、もう慎太郎都知事なんて人のことはどうでもいい。問題は、くだらないことに騒いで12年間が無為に過ぎ去り、僕たち都民が石原慎太郎都知事といっしょになって「結局東京は日本一なんだから」という無根拠な優越感に浸っているうちに、取り返しがつかない局面を過ぎてしまったんじゃないか、ということだ。