痒い! 都会の蚊がすごいことになってる件

 先日から全身のあちこちが痒い。なんだか体中を蚊に食われているからだ。台風の日に外出した折、コンビニとかビルの軒先とかで雨宿りしたのだがその時刺されたようだ。
 田舎に帰った折、実家のそばにある薬師堂でぼーっとくつろいでいると藪蚊に刺される。田舎の藪蚊は強烈だ。都会で見かけるやつとは大きさも迫力も、口吻(こうふん)の太さも違う。口吻が太いから刺されたとき「ぐさっ」という感覚があるくらいだ。脛など体毛が生えている部分にたかられると、六本の足がすね毛に触れ、やつらの存在を明確に感じるくらいだ。
 最近刺されまくった都会の蚊はちょっと違う。田舎の蚊と違って体は大きくないかもしれない。気配を察知する隙もなく、いつの間にか刺されている。そして、この痒さが尋常ではない。僕は元来、蚊に刺されても刺されたことを忘れてしまえるくらい痒みに鈍感だ。ところがこの二、三日に刺された蚊は猛烈に痒い。眠りの深い僕が夜中に痒さで目覚める。翌日以降も痒みがおさまらず、キンカンを大量に塗布しても痒さはおさまらない(もともとこれらの虫さされ薬は痒みを中和することはできないのかもしれないが)。
 みなさんご経験おありだと思うが、掌とか足の裏など皮膚が分厚くなっている部分を刺されると痒みは倍増、三倍増する。掻いても気が紛れず、かえって蚊の毒素を皮膚中に拡散してしまい、痒みはさらに倍する。今僕の左手の親指つけ根がそうなっており、この痒みの苛立たしさはいかようにもしがたく、せめてこうしてブログで痒さを表現して気を紛らわすのみ、なのだ。


 アル・ゴアが提起した論議だったか他の誰かだったか忘れたが、地球温暖化で予想される災害の一つに「熱帯病の蔓延」がある、と聞いた。蚊は何種類もの危険な伝染病を媒介する。マラリアデング熱、黄熱病、西ナイル熱日本脳炎シンガポールに行くと「植木鉢の敷き皿を消毒しろ!」としつこく電車内に掲示があるがこれはデング熱予防キャンペーンだ。
 マラリアは最も危険な伝染病で、ワクチンがないから副作用の強い予防薬を常用するという対策しかない。これがアルコールと相性が悪いのでジャングルに旅行すると大変…という話は西原理恵子のエッセイで読んだ。あとは蚊帳を吊ったり、虫除けを使ったりするしかないという、考えてみりゃそんなの無力じゃんって対策しかないのだ。蚊、最強だな。
 僕はマラリアは熱帯特有の伝染病だと思っていたのだが、戦前までは台湾でも猛威を振るっていたらしいし、もっと古くは熱病「瘧(おこり)」として日本の古文学にも登場しているらしい。近代以降は瘧という記述を見かけないようなので、なぜだか日本本土では駆逐されたのかもしれないが。
 マラリアは原虫が体内に残るので汚染地域を離れても発症の危険は去らない。なかでも脳マラリアは危険で、東南アジアで感染して帰国して発症すると、日本の医師はマラリアに詳しくないのでてをこまぬいているうちに重篤になり死亡する、という悲劇的なケースもあるという。傭兵・高部正樹氏の実体験小説『戦争理由』では、戦友が帰国後に脳マラリアを発症して亡くなった逸話が書かれており涙を絞った。
 天然痘が根絶された今、マラリアは地味だけど着実に危険度ナンバー1の感染症かもしれない。もちろんAIDSは深刻だし、SARS鳥インフルエンザも重大だ。だが、こういう派手なケースの裏側で、じわじわと忍び寄る蚊のように地味な死病が近づいている気配を感じるのだ。気のせい?
 今年の猛暑はすごかった。東京が連日摂氏35度ってなんだよ。沖縄・台湾・シンガポールより暑いじゃんかよ。ということは、東京に熱帯の蚊が入り込めば十分繁殖できるってことじゃん。そして越冬できる環境があれば…。いや越冬しなくても、一夏だけのパンデミックとかってあるかもしれない。
 黄熱病とかはワクチンがあるから比較的対処しやすいんじゃないかな。僕もワクチン接種済み証明(イエローカード)持ってました。ケニヤ観光した折、八重洲で痛い注射を受けた。今は検疫所移転したのかな?(ケニヤの観光地は主に高地なのでマラリアも黄熱も事実上危険性が低いようです。モンバサは低地なので可能性あり、とも聞きました)


 マラリアなんて取り越し苦労だとしても、今シーズン終盤の蚊の痒さは尋常ではない。こいつら、ちょっとモノが違う。何かが変化しつつあるよーな気がする。植木鉢の敷き皿で、立体駐車場の底で、道ばたに捨てられた空き缶でやつらは静かに殖え、怪超音を発して飛び立つのだ。僕たちの血を啜りに。