タマフル必修映画祭 in 新宿バルト9に行ってきた!

■映画は好きだけどめったに映画館に行かない、最近はとくに盛り場から遠くなってしまったので映画に行くことすら忘れていたたぬきちです。昨日はTBSラジオライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」主催、「タマフル必修映画セレクション」に行ってきました!
 タマフル(番組の略称)のファンだけど、リアルタイムに電波で聴くのが苦手(バックトラックが鳴ってるのが嫌い、かつ電波状態悪し)かつ、横になって聴いてると寝る人なのでPodcastで聴いてたんだけど、思いたってライブに行ってきたんだよ。一昨日、イープラスでチケット予約したんだけど普通に買えたよ。ほとんど天井桟敷のO列だったけど、通路際で良い席だった。


■開場は19時なんだけど、ちょっと早めに新宿三丁目のバルト9、シアター9のフロアへ。500名収容の劇場がほぼ満席なのでロビーも混んでるかと思ったが早く来てる人は少なかった。こういうイベントの客を観察するのが好き。ていうか僕も他人から観察されてるわけだが。開場を待ってるのは圧倒的に独り客が多かったが、いざ開場して行列してるなかにはカップルが多い。カップル客のみなさん! 番組のコンセプトをご存じなんですか! これは男女で楽しむ番組じゃないんですよ! と言いたくなるのは俺が独りだからか。女子一人、または女子二名といった客もいて、おお!あんたらは男気があるね!と無意味に感動。別にカップルで見てもいいわけだがね。


■橋本P(声から想像したよりも横にがっちりした体型の方でした。ていうか近くで見るとやはり巨体)の「シネマハスラー・ドッグ」450円也のプロモーションの後、宇多丸さん、しまおまほさん、構成作家古川耕さん登場で軽くトーク。良いイントロダクションです。一家で「グラインドハウス」好きのしまおさんがネタバレ喋るんじゃないかとちょっとハラハラしたのがまた楽しい。
天井桟敷でもとても楽しかったよ


■本編は2本の映画がぶっ続け上映、その合間に偽予告編付き。長いです。3時間くらいか。まず予告編「マチェーテ」。次にロバート・ロドリゲス監督「プラネット・テラー」。予告編3本「ナチ親衛隊の狼女」「ドント」「サンクスギビング」。そしてクエンティン・タランティーノ監督「デスプルーフ」。
 予告編の間には「お食事は劇場隣の当店で」と止め画オンリーの安CMも入って雰囲気最高。僕が岡山で2本立てを見てた頃は「また来てしまった丸亀の夜」なーんて瀬戸内海の向こうのナイトクラブのCMが入ってたりしたのを思い出した。当時は瀬戸大橋もなかったのにな。
 偽予告編では「ショーン・オブ・ザ・デッド」のエドガー・ライトが撮った「ドント」が一番気に入った。この人はイギリス人なのでごくごく短いなかでもモンティ・パイソン的なバカ展開をやってて、一番笑える。主演女優は「ホット・ファズ」で殺されるシェイクスピア女優ですね。
 イーライ・ロスの「サンクスギビング」も気に入った。「ハロウィン」に惨劇が起こるなら感謝祭で起きてもいいよな、というわけでお約束ホラー映画の偽物。日本でも誰か撮らないかな、「お盆」とか「ひなまつり」とか「三の酉」とか。


グラインドハウスとは、B級映画を2本立て以上で見せる、ぼんくら向けの興業形態のことらしい。って受け売りです。「ロッキー・ホラー・ピクチャー・ショウ」の主題歌で「♪サイエンス・フィクション〜 ダブル・フィーチュア(SFの2本立て)」と歌われてるけど、これですね。もっともイギリスでもグラインドハウスって言うかどうか知らないが。このタマフルイベントは、安い劇場とかドライブインシアターに集合したつもりで見ようよ、トイレ立ってもいいし、マナー悪く何か食べてもよいよ、という主旨なのだそうだ。でもみなさん映画に集中して、マナー良かったですよ。


グラインドハウス映画の精神、というのがあるのだろう。グラインドハウスの客はぼんくらでバカなので、「待たせない」「わかりやすい」「すぐに盛り上がる」「血がドバドバ」「音楽は古くていいからビートと大音響」「派手で悪趣味なアクション」「安くてもいいから派手なおねーちゃん」などなどのはずせない決まり事があるというか。あとはカンフーかな。こういうのが主成分です。
 つまりは男の子が大好きなバカ映画の条件を押さえとかなきゃいけない、ってことなんだけど、それを低予算で撮るということも条件になるのか。いや低予算は必須じゃないが、低予算を克服するための“工夫”は必須条件ということで。


■1本目「プラネット・テラー」、これはきっちりコンパクトにまとまったゾンビ・パニック映画のパロディ。いやパロディ成分よりも正統派ゾンビ映画の成分の方が多かったゾ。何より、大好きな役者がいっぱい出てるのが良かった。そういうお祭り感に溢れた映画。ジョシュ・プローリン(DV医師)にグッと来る人が多かろうが、僕はやはりマイケル・ビーンの保安官とトム・サヴィーニの副保安官が嬉しかった。ブルース・ウィリスがどうでもいい存在感を主張してたのも笑った。
 これはやっぱり正統派のグラインドハウス映画と呼ぶべきだろうと思う。上映後のトークで「どっちが好き? プラネット・テラー派の人!」と挙手を求められたが圧倒的に少なかった(僕はこっちに挙げた)。それはわかる。「デスプルーフ」の凄さは並みじゃないから。でもグラインドハウスの精神を一所懸命に具現化しようとしたのはこっちだと思う。サービス満点だし(サービス過剰だから「デスプルーフ」と比べると平板に見えちゃうハンデがある)。
 単体の作品として見ると「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(1996)そっくりな作品なわけだが、比べるときっちり十年分以上進化してて、気持ちよさやタイト感もグッと上昇。ていうかグラインドハウス仕様という枷をはめたことがより良かったっていうか。
 僕はこの映画好きですよ。ていうか本作があるから、より「デスプルーフ」が際立つわけで、感謝しろっつーのタラ。ただ一つのクレームは、ネタバレになるけど、AR-15はあんなふうな形で装着することはできないと思うんだよな。機関部の後ろにリコイルスプリングがあるから。こういうご都合主義、実銃と関係ないよプロップだから主義もグラインドハウス精神なのかもしれんが。(それを言うなら、どうやって引き金を引いていたのだ、という突っ込みも必要だしな)


■2本目、「デスプルーフ」。これはちょっとグラインドハウスのルールを逸脱した反則の作品だ。何より、この作品は客を「待たせる」のだ。中盤まで女の子グループのくっだらないベチャベチャしたお喋りに付き合わないと肝心のアクションシーンが始まらない。ずーっと我慢させられてたから、最初のアクションで「どっひゃー」となるわけだが、これは単純な引き算と足し算による落差のなせるワザで、ちょっといただけない。ずるいよタラ、と思うのだ。
 後半、別の女性グループが登場してからは奇跡のような盛り上がりが始まるのだが、この盛り上がりがあまりにも神懸かり的で、前半部であんなひどい我慢を客に強いたというズルが帳消しになる。だから誰もタラがズルいことを指摘しない。ロドリゲスは一所懸命ルール守って作ったのに「プラネット・テラー」は噛ませ犬((c)宇多丸)的な扱いかよ、というので僕は“テラー派”です。
 ほんっと、前半の女の子たちの会話がつまんねーつまんねー、みんなここでトイレに立ってたが正解だよと。寝ていいとこだと。グラインドハウス映画でなく文芸映画が始まったのかと思ったよ。面白くなるのかと思って見てても面白くならないところがミソなのだ。ひどいミソだ。
 でも後半はウソのように盛り上がる。こんだけ盛り上げられるんだから、前半であんなひどい落差トリック作んなくてもいいじゃん、と思うのだが、これもタランティーノ的には面白いんですかね。ま、雰囲気あるからいいですけどね。なかには可愛い女の子もいますし。
 で、後半である。あ、題名はブレットプルーフ=耐弾仕様の洒落でデスプルーフ=耐死仕様のスタントアクション用自動車のことだそうです、そんな言葉あるんかいな。運転席をロールケージで堅め、4点ベルトでドライバーを固定し(助手席には保安部品はない。シートもないし)、100マイルで激突しても生き延びられる車のことだそうですが、運転席にヘッドレストがなかったよーな気もする。
 ともかく、本作がクルマ映画であることは中盤まで伏せられたままなのです。僕は全然予備知識持たずに行ったから、それまで「俺は何を見てるのだろうか」と悩んでいました。
 wikipediaによると、最初に登場するデスプルーフ車はシボレーノヴァ1968だそうですが、古い車のことは知らないです。ただ、前のオーバーハングは切り詰められてるのに後ろがすごく間延びしてて、かつ後輪が腰高でホットロッドな感じが良い車でした。
 次に出てくるのは別の女性4人組の乗るマスタング。ポニーカーらしく、女性スタントマンが軽やかに転がす様子が良かった。そして“オシャレでスポーティだけど非力”って感じも良い。だから主役の女スタントマンが言う「アメリカに来たからマッスルカーに乗りたいの」という言葉が生きる。
 マッスルカー……俺が知ってるのはあれくらいだけど? と思ってたら、ヒロインが「ダッジチャレンジャー、それも1970型で440エンジンの!」と詳しい仕様を叫ぶ。さらに「色は白よ!」とだめ押し。おお、「バニシング・ポイント」のクルマじゃん! これはアメ車に弱くても映画好きならおなじみの名車!
 そしてそこに次なるデスプルーフ車が登場するわけです。これは同じ会社のちょっと先輩車ダッジチャージャー。エンジンは同じ440立方インチだそうです。動力的にはまったく同じマッスルカーの対決、結果やいかに? それにしても1970チャレンジャーは人気車種で日本でも300〜500万円で取引されてる、それを極めて乱暴なカーアクションに使っちゃおうというのはクルマファンとして見ていてドキドキしました。もったいなー!と。
 という映画なわけですが、ここまでで見当が付く通り、この映画は前半の酒場シーンと後半の田舎道ロケのカーアクション(あれはチェイスじゃないですね)シーンしかありません。すごく低予算です。低予算のハンデを低予算ならではの方法ではじき飛ばした、低予算だから出せた迫力、人力の凄みを見せつけて、ぐいぐい容赦なく盛り上げてくれます。この映画の後半では500人収容の劇場がまさに一体となって拳を握りました。いや、すごかった。


■映画館で映画を見る、しかもそれが割と当たりで観客席もちゃんと盛り上がる、ということはたまにあります。けど、今回は前後に宇多丸さんたちのトークが入り、個人個人が映画で得た体験を、宇多丸トークを媒介にして共有することができた。これが希有な体験でした。面白いことは誰かと共有するとより面白い、ということですね。ありがとうございました>宇多丸さん
 ほんと、映画を語るように小説なり本なりのことを語れるようになれれば、と思います。
 といってもこの「グラインドハウス」、日本では1週間しかやらなかったし米国でも不入りだったそうです。難しいですね。いま宇多丸さん推薦の押井守『勝つために戦え!〈監督篇〉』ジュンク堂渋谷店で買って読んでいるので、作品としての映画とはまた別に、仕事としての映画の難しさを慮っているところです。(押井監督のこの名著、最近続編が出たみたいですね。『勝つために戦え!〈監督ゼッキョー篇〉』