DVDで映画を見た感想をまとめたりして

 引越しとか校了とか販促とかでなかなかゆったり失業者を満喫することができてなかったので、レンタルDVDをちまちま借りて見ている。でも、いざ「借りるぞ」と意気込んで店に行くと、意外に空振りをしてしまう。前から見たかった作品が店頭では色あせて見え、興味なかった作品がなんだか誘ってるように見えるのだ。その結果、スカを引くわけで。
 このところ見ることができたのはこれら。ちょい古い作品ばかりだよ。センスな〜。
サブウェイ123 激突」(2009アメリカ)
戦慄迷宮」(2009日本)
レイチェルの結婚」(2008アメリカ)
チェイサー」(2008韓国)
007 カジノ・ロワイヤル」(2006アメリカ)
パラノーマル・アクティビティ」(2007アメリカ)
ウィッカーマン」(1973イギリス)

 久しぶりに映画見たのでなかなか乗れなかったが…ていうかダメすぎな作品が混じったりしててそれなりにアップダウンが楽しめたラインナップでしたよ。


■「サブウェイ123」
 引っ越して、My引越し祝いにTSUTAYAで安いDVDプレイヤー(ただしHDMI接続)を買って初めて見るぞ!と気合いを込めて「サブウェイ123」を見たのだが、こいつは作品のせいじゃなくてプレイヤーにバグがあるため設定がうまくいかず、通常の半分くらいに縦が圧縮されたシネスコという変な画面での鑑賞となった。画面の縦横比が気になって気になって、デンゼル・ワシントンやトラボルタの演技にちっとも気持ちが向かない。だが冷静に考えると、縦横比が正しくてもそんなに面白い作品じゃなかった気がする。これたしかリメイクだよね? 昔ロバート・ショー主演のやつはテレビの洋画劇場で楽しんで見た記憶があるのだが、最新作は懸命に筋を水路づけようとしてるのだが、あまり怖くないのだった。ただ、昔と同じ安〜いサブマシンガンがちらっと出てたような気がする。あれMGCがモデルガンにしてて評判良かったよね。


■「戦慄迷宮」
 2本目「戦慄迷宮」は、DVDプレイヤーの輸入元に問い合わせて正しい縦横比で見ることができた。しかし…内容的にはもっとも悲惨な一本だった。ホラー映画なのに、状況も心情も何もかもを台詞で説明しようとするのである。おそろしくつまらなかったので途中で見るのを止めました。これ、富士急ハイランドの例のアトラクションの中で見るとかすればちょっとは怖いのかな? いやー、そんなことないな。これは、失敗作というやつだな。


■「レイチェルの結婚
 ライムスター宇多丸さんの「シネマハスラー」でも評判が良かった一本。ていうか、僕は記憶の持ちが異常に悪いため「ハスラー」で聴いたことを全部忘れて見ることができて超幸せだった。いやー、この映画、とても怖いです。スリラーです。アン・ハサウェイはたしか「ブロークバック・マウンテン」の金持ち奥さん役だったよね? ものすごい目千両な女優。世間では「プラダを着た悪魔」とかが有名なのかもしれないが。その彼女が痛々しく痩せて痛々しい演技を全編にわたって披露してくれる、一級品のサスペンスorホラーでした。
 アン・ハサウェイは家族の中で浮いてる「黒い羊」な子だが、彼女が悪いわけじゃなくて(十分はた迷惑な人ではあるが)、彼女の存在のせいでそれまで平穏無事に見えてた家族たちが実はそれぞれに問題含みなんだってことが可視化されてしまうとこが他の家族には実に迷惑っていうか。
 ところでこの映画は「血筋重視」というか、父には後妻(娘たちにとって義母)が、母にも今の夫がいるのに、彼らはあたかも存在しないがごとく描かれる。姉レイチェルの婿とその家族は時間的にたくさん出てくるが非常に平板というか。娘たちの義母がけっこう画面に出てたのにほとんど脚光が当たってなかったのが可哀相だった。この映画の揺れるカメラの視線の主は?という宇多丸さんの説でいうと、この視線の主は血族以外にはまったく興味がないんだね。改めてそれを思うと、スピリチュアルなホラー映画としても鑑賞できるかも。


■「チェイサー」
 韓国映画ではポン・ジュノとかパク・チャヌクが好き、というミーハーなたぬきちですが、本作もその系統ですね。映画を見た!という身体的な満足度においては他の作品を大きく引き離すカロリーがありました。このカロリーが韓国映画人気の秘密なんでしょう。行列のできる店は例外なく大盛りである、という身も蓋もない真実は映画にも当てはまります。そして「こんなたくさん殺したやつが何度も捕まりかけて捕まってない!?」という驚きが新鮮。犯罪者を訴追する法律が犯罪者の逃亡を手助けしてる、というアジア的な設定と、振り回される人々の姿が楽しかった。でもこれたぶん他人事じゃなくて日本でもいっぱい起きてるような。日本では「なかったこと」にされてるだけなんじゃないかな。
 一昼夜、だったかな? 短い時間で起きたことをタイトに描いた作品なので「真昼の決闘」みたいな緊張感があって良いです。まっこと、映画を見る楽しみに満ちた作品でした。こういうねっとりみっちりした作品、日本ではなぜ作らないのかね。


■「007 カジノ・ロワイヤル
 僕は「007」と「スターウォーズ」と「寅さん」は見たことがなかった。「SW」はSFを鑑賞する環境(おたく仲間)が当時周囲になかったので、という理由だけど、他の二つはテレビでもしょっちゅうやってたのになぜ見なかったんだろう。一つには、どっちも「サザエさん」みたいに時間軸が前に進まない、主人公が成長したりしないドラマだと思いこんでて、シリーズの約束事になじめなかったのかもしれない。いや、「007」は「ロシアより愛を込めて」は見たな。テレビで。ショーン・コネリーがAR-7で航空機を撃墜してたよね? 荒唐無稽。
 あれから何十年経ったのか知らないけど、最新の007は未熟なボンドが成長していく(前へ前へと進む時間軸がある)というので気になっていた。実は飛行機で「慰めの報酬」を見たことがある。感心した。序盤に目の覚めるような宙づりアクションがあるとか、派手な車が必ず出てる(準主役?)とか、伝統の約束事がきちんと守られていながら、「00のライセンス」を取得したばかりの若葉マークなボンドが上司Mに迷惑をかけながら(Mのぼやきがちょっとわざとらしいが)前へ前へと物語を推進していく姿は美しかった。これは前作も見なければ、と思ってたのだが、やっと見たのでした。
 これ、いいですね。一般的なエンタメ映画の尺の中にこれだけの要素を詰め込み、しかも貧乏たらしいところがまったくないのがすごい。唯一の欠点は、ボンドが使う電子機器は全部ソニー製だってことか。スマートフォンを使わないのは変だよね。あ、次回作はエクスペリアを使うのか(次回作あるのか?)。
 ダニエル・クレイグは好きな俳優だ。「ミュンヘン」「ディファイアンス」となぜかユダヤ人役が目に付くのも気になっていた。イギリス人だとは知らなかったす。クレイグのボンドはいかにも場慣れしていない、厚かましさは天下一品だけどどこかおずおずとした雰囲気のある、清新なジェイムズ・ボンドだ。いや他のボンドは知らないけど。なんか安定感がなくて、自信たっぷりに振る舞っててもどこか危なっかしい、魅力的なボンドなのだ。他のシリーズのボンドだと「ま、何があってもこいつは死なないし」と思って見られるとこがあると思うけど、クレイグのボンドは「こいつ、死ぬかも」と思わせるのだ。設定も古い作品の骨子を丁寧にアップデートしてて荒唐無稽なのにリアリティがないとは思わせない。ほんと素敵な作品だ。このシリーズがもう製作できないかもしれない、というのは人類にとってこの不景気がどんだけ深刻かということかもしれない。


■「バラノーマル・アクティビティ」
 これ、すごい映画だった。登場人物は4人、うち2人は脇役で、本来の登場人物はこの家に住む彼と彼女だけ、というシンプルこのうえない作品。しかも演劇的な台詞がなくて、「どうせこれ映画だし」という気分にならない。彼が彼女をビデオカメラで撮り続ける、という無理な設定が無理に見えない、カメラに撮られるのを嫌がる彼女とか、とても自然で良い。
 彼女には悪魔が取り憑いてて、その悪魔が最近また超常現象を起こしだしたのでカメラでそれを記録して対策に役立てる、という設定。それが後に発見されて、警察が編集したものを僕らは見てる、という「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」そっくりな設定なんだけど、実はそんなことはあまり怖くない。怖いのは、彼と彼女の関係がだんだん壊れていくところと、それでも毎晩二人でベッドに入るデリカシーのなさだ。だいたい、寝てるときに不審な音や振動、気配があるというのに、寝室のドアは必ず開けっ放しなのである。季節は秋で「夜は外が寒い」という台詞もあるのに。このデリカシーのなさは何? それが怖いわ。
 密室のような邸宅(立派な家だよねえ)で壊れていく二人の姿、いやー、怖かった。女が怖い、怖いのは女だ、男はそれで身を滅ぼす、ということだよな。そして男は自分が滅びに向かっているのを全然気づかない。たぶん僕も気づかないんだろうなあ。怖いっす。


■「ウィッカーマン
 ずっと前に買ってて見てなかったDVD。町山智浩さんによると「ホット・ファズ」の元ネタだという、イギリスのカルト映画。いやー、初めて見たけど、ほんまカルトでしたわ。
 スコットランドの風光明媚な田舎を、窮屈な警官の制服を着た主人公が動き回る。地元の人たちが怪しい歌を歌い、妖しい踊りを見せる。んー、このちぐはぐさは「ワイルド・パーティー」(1970アメリカ)に似てるかなあ、と。
 でもこの音楽はすごく良いです。踊りや、風土、役者たちの演技ではない(見る側にとっての)異邦人たちの実在感が良かった。もちろんミステリなんだけど、途中から謎とかはどうでもよくなってきて、ひたすら「この世界にずっと浸っていたい」と思わせる作品。映像特典には「何百回見たことか」「ロケ地を何度も訪れた」というファンが出てくるけど、その気持ち、わかるわ。
 イギリス人って癖があって、食べるとくせになる。なんというか、この臭みがたまらん。


 そろそろ生活に時間をつくる工夫をして、映画館にも行くようにしようと思う。前には映画見たくなったらネットで調べて歩いていけば真夜中でも見れた(土曜なら)って恵まれた環境だったけど、引っ越してしまったのでそうはいかない。でも、そういう制約があることがもしかして大事なのかもしれない、と思ったり。