うなぎを食べたんだよ

 暑い日が続く。日中、外を歩いてるだけで死んだりする人がいるというがまったくもって危険な毎日だ。
 去年の夏までは日中は冷房の効いた会社にいたから、夏がこんなに暑いとは気づかなかったw。時々、暑いなかを無理して出かけて臨店したりしたけど、ああいうのはスタンドプレイだから特別なことだ。それに電車で移動してても書店に着いても冷房はあるので、意外に消耗しない。銀座四丁目の交差点がいくら暑いっつっても、すぐそばのデパートからは冷気が流れてくるしな。
 いちばんやばいのは、近所に買い物に行くとか、図書館へ行くとか、現在の僕のような外出パターンだ。これはけっこうやばい。都心部と違って住宅街は暑気からの逃げ場がないので、ちょっとした移動でも暑気あたりしかねない。
 この暑さで亡くなった方がいる、というニュースを聞くと、ビニールハウスでのちょっとした作業中とか、クーラーがタイマーで切れた後に熱中症になったとか、屋内にいたはずなのにとか、些細な状況が命にかかわっているケースが目に付く。日常生活は意外にやばくて、危険なのかもしれない。暑気だけじゃなくて、扇風機だってずーっと当たってると心臓に悪いって言うしな。ほんまけ。


 そんなわけでパッシブな防御策として栄養をつけて体力増強をはかる、というプランを策定し、予算を捻出してうなぎを食べに行った。土用丑の日の直前なので鰻屋は大繁盛だった。
 
 この店の鰻重は鰻がすごくでかい。通常より盛りが多いこともあるが、鰻自体もでかい気がする。もしかすると台湾は屛東県あたりで生まれて浜名湖あたりに留学に来て日本国籍を取得したやつかな?とか思ったりする。昔々、中華民国政府のご招待旅行であるマスコミ台湾視察団というのに混ぜてもらったことがあって、高雄郊外の親日家の鰻養殖業者さんのお宅で鰻重をご馳走になったことがある。その鰻重がまた大きく、ここに載せた写真よりずっと厚かった。正直、鰻とは別の生き物では?という感じだったのだが味は良かったよ。
 台湾がうなぎの名産地であるのはつとに有名と思う。台南とかの南部に行くと、電車の車窓からごぼごぼと水を撹拌してる鰻池をいっぱい見かける。あとあまり良い例じゃないけど、那覇空港で事故った中華航空機の貨物が活魚の鰻だったこととか思い出すよね。
 その後うなぎの養殖事業はさらにグローバル化し、中国本土やベトナム、マレーシアなどに広がったと聞いた。いまや台湾産は高級品なのである。えへん。台湾贔屓なので嬉しいね。もっとも、それは他国に比べて台湾の人件費が高いので高級品にシフトしないと市場で生き残れないということでもあり、痛し痒しなのかもしれない。
 
 ちなみに、これがふだんの昼飯。しょぼいっしょ。左上は群馬の農協の市場で買ったキャラブキ。引越しの最中に冷蔵庫から発掘された一品。他はキムチ、自分で作ったコールスロー。キャベツは塩で揉むだけで美味しいね。この時期だからか。
 引越しでは冷蔵庫とか台所からは意外な珍味がいろいろ発掘されたので面白かった。中には十年前に賞味期限が切れて膨らんだ缶詰とかあってちょっと恐怖ではあったが。


 相変わらず野口武彦新選組の遠景』を読んでいるのだけど、これは凄い。史料に当たりながら新選組をめぐる巷説をくつがえしていくのだが、野口先生は斬り合いとか銃撃戦の様子を史料から丹念に再現して見せるので、そんじょそこらのアクション映画や戦争映画より迫力がある。野口先生の描写は、暴力に肉感が伴っているのだ。
 肉感は暴力描写のみにとどまらず、酒食に溺れてだまし討ちされる芹沢鴨伊東甲子太郎の話を読むと、宴席の酒肴も美味かったんだろうなー、なんて思う。僕は江戸時代の料理とかに造詣が深くないので、ここで連想するのは杉浦日向子描くうなぎ料理だ(『とんでもねえ野郎 (ちくま文庫)』とか)。こういうサブリミナルのせいで、うなぎを食べに行っちゃった気がする。
 今日は午後から出かけるので、せいぜい暑気あたりしないようにします。暑気あたりしそうになっても野良犬には涼しい社屋はないんだよ。